【重点課題2】医療サービスへのアクセス向上
※このページはサステナビリティレポート2018の記事内容です。
目標と主な成果
2030年目標
- (1)ITを活用した医師や医療従事者の負担軽減
- (2)グローバルヘルスに貢献する感染症診断システムの開発・普及
- (3)新興国への技術診断指導と健康習慣の普及
急速な高齢化が進む日本や、人口増加・経済成長が進む新興国では、医療需要が増加し、医師や看護師などの人材不足と過酷な労働環境、医療サービスの地域間格差が課題になっています。また、開発途上国では依然として感染症による死亡率が高く、エイズ、結核、マラリアなどの伝染病根絶はSDGsの目標でもあります。富士フイルムグループは、「予防・早期診断・早期治療」の実現のために、これまで培った独自の技術や医療IT分野で蓄積された大量のデータとAI技術を融合させることで、医療環境の整備、医療従事者への貢献を目指します。
2017年度の活動
【目標】医療従事者の負担を軽減するAI/IoTを活用したサービスの拡大・普及
- 医療AI技術のブランド「REiLI(レイリ)」を発表(2018年4月)。東京大学発ベンチャー「エルピクセル」との提携をはじめ、AI技術ベンダーや医療機関との共同研究を開始
【目標】開発途上国における結核の早期発見診断システムの普及
- 富士フイルムとFIND(*)が日本発の革新的な治療薬、ワクチン、診断薬の創出を目的とするグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)を得て開発を進める、結核の高感度な迅速診断キット「TB-LAM」が第1期の開発期間を終了
【目標】新興国での検診システムの普及、医療環境改善の支援
- サウジアラビア初の「女性の健診センター」設立に向けて、富士フイルムとサウジアラビア・スポーツ庁が覚書を締結⇒健康診断制度のない同国での「女性の健康」への貢献を目指す
- 「富士フイルム マンモグラフィ世界会議」を初開催⇒日本・欧州・北米・中東・アジア・オセアニアのグループ会社から担当者が集まり、最先端の技術情報、各地での普及ノウハウを共有
- アウトバウンド事業、ODA事業等に参画し、メコン5カ国(タイ・ラオス・ミャンマー・カンボジア・ベトナム)、インドネシア、ブラジル、ザンビアなどで医療環境改善を支援
* FIND(Foundation for Innovative New Diagnostics):開発途上国に適した、感染症の新たな診断技術の開発と普及を目的とした活動を行っているスイスの非営利組織
今後の活動&目標
- 医療AI技術の研究開発を本格始動。2019~2020年度にかけて各サービスの立ち上げを目指す
- 「TB-LAM」がGHIT Fundの第2期(2018〜2022年度)にも採択され、WHO認証及び製品化に向けたさらなる臨床試験を実施。「2030年までに結核流行終息」への貢献を目指す
- 新興国での検診システムの普及、医療環境改善のための教育指導の継続
医療IT分野におけるAI/IoTの活用
富士フイルムグループは、高精度な診断を行うX線画像診断、内視鏡、超音波診断装置と、診断画像をより効率的に活用するための医療ITをグローバルに提供しています。医用画像情報システム(PACS)(*)である「SYNAPSE」シリーズは国内でトップシェアを誇り、様々な症例を効率的に見つけやすくする独自の画像処理・認識技術で、医師の画像診断をサポートしてきました。
2018年4月には、医療画像診断支援、医療現場のワークフロー支援、そして医療機器の保守サービスまで活用できるAI技術の開発を進め、このAI技術を「REiLI」というブランド名で展開していくことを発表しました。今後は、これまで培ってきた画像認識技術と深層学習を組み合わせたAI技術を作り出し、PACSと融合させることで、画像から病変の疑いがある箇所を検出したり、過去の症例と照合しレポートを半自動で作成するなど、診断ワークフローをトータルで支援するAI技術及びソリューションの研究開発を進めていきます。また多様な疾患に幅広く対応するために、開発段階からオープンなプラットフォームを提供、優れた技術をもつ国内外のAI技術ベンダーをパートナーとして募っています。自社だけではなく、社外の多種多様なAI技術を結集することで、医師の診断支援、業務効率化をサポートする幅広いサービスを提供していくことを目指します。
* PACS:CT、MRI、DRなどの医用画像診断装置で撮影した画像をサーバーに保管し、医師がそれらの画像を院内の端末に表示して、読影診断するためのシステム。近年、撮影される画像枚数が増大し、医師がこれらの大量の画像を効率的に読影・診断できるソリューションが求められている
感染症の早期発見への取り組み
富士フイルムは、写真の現像プロセスで用いる独自の銀塩増幅技術を応用した高感度検出技術よって、発症初期のインフルエンザウイルスを検出する診断システムを開発、この画期的な技術を世界の様々な感染症の早期発見につなげていくための活動を行っています。
結核は世界三大感染症の一つで、単一の感染症としては世界で最も死亡者数が多く、2016年には1,040万人が結核を発症し、170万人が死亡しています。さらに開発途上国に多いHIV感染者は、免疫力が低下するため結核の罹患率が非常に高いにもかかわらず、現状、医療インフラの整備が不十分な地域ではHIV感染者の結核検査システムがなく、簡便、迅速、安価で高感度なPOCT(*)キットの開発が強く求められていました。富士フイルムは、2016年4月からGHIT Fundの助成金を利用し、FINDと共に「TB-LAM」の共同開発を開始、2017年に第1期の開発を終了しました。TB-LAMは、HIV感染者の結核を検査するための尿を検体として用いる高感度のキットで、2018年5月には南アフリカで大規模な臨床評価を実施し、2018年からは第2期の助成金を受け、開発途上国での採用に不可欠なWHO推奨医療機器要覧への掲載を目指して、さらなるエビデンスの獲得に向けた臨床試験を行う予定です。同時に、蔓延国での採用を目指し、WHOのみならず蔓延国の保健省、人権支援団体、グローバルヘルス関連NGOなどにも働きかけを行っていきます。TB-LAMがHIV非感染者や小児の結核検査に広く使用可能な性能を実現できた場合には、10年間で結核罹患率を16%減少させ、死亡率を39%減少させるというシミュレーション結果も得られており、結核による死亡率の低下と感染拡大の抑制に大きく貢献できます。
* POCT(ポイント・オブ・ケア・テスト):患者の近くで検査を行い、その場で迅速に診断ができる検査システム
新興国の医療環境改善への取り組み
富士フイルムグループは、経済産業省や厚生労働省などが取り組む日本の医療技術・サービスの国際展開支援(アウトバウンド)に参画するほか、日本の政府開発援助(ODA)等を通じて、世界各地の医療技術向上、人材育成、医療インフラの整備等のサポートを行ってきました。特にカタール、サウジアラビアなどの中東で注力してきたのは、検診習慣のない国での乳がんを始めとした検診システムの普及です。政府と協力関係を築き、デジタルマンモグラフィの導入、読影セミナー等の教育活動を推進しています。またアフリカでは、「草の根無償」プロジェクトを通じて医療設備が不十分な地域に医療機器の導入や現地の医師・技師向けの教育活動を実施。その功績が認められ、2017年にはザンビア全土の13の医療機関にX線機器を導入、都市に限られていた検診や診断を地方でも受けられるようになりました。また、インドネシアやブラジルでは、都市と地方との医療水準の格差是正を目的に、遠隔医療を実現する医療インフラ整備を行いました。
さらにタイでは、日本で展開する「キュアサイン」の海外での事業化準備を進めています。タイは経済成長に伴う生活習慣病が問題となりつつありますが、生活習慣病予防に対する意識や検診受診率は低い状況にあります。このプロジェクトは2018年9月30日終了予定のJETROの実証事業にも採択されており、2018年は事業化に向けた最後の検証を進めていきます。
中南米各地でも医師向けのマンモグラフィセミナーを開催。写真はメキシコでの様子
カタールでは「国家乳がん、大腸がん検診プロジェクト」「国家統一ITプロジェクト」に参加し、国全体の医療レベルアップに貢献
トピックス
新興国での健康診断普及
(サウジアラビア初の「女性健診センター」設立に向けサウジアラビアのスポーツ庁と覚書を締結)
同国スポーツ庁で女性スポーツ振興を担うリーマ王女と覚書を交換
富士フイルムは、サウジアラビア初の「女性健診センター」整備についての協力を進めていくことを同国のスポーツ庁と合意、覚書を締結しました。現在サウジアラビアは成長戦略「サウジ・ビジョン2030」を掲げており、日本はサウジアラビアとの経済協力プランに合意、この協力分野の一つに「健康・医療」があります。今回の件は、こうした両政府の取り組みと、同国が成長戦略の一環として女性の社会進出を推進していることから実現しました。サウジアラビアでは最近、女性の肥満が問題になっていますが、同国を含む中東・アフリカ地域には日本のような健康診断の制度がありません。富士フイルムは世界有数の水準を誇る日本の医療で活用されている自社のノウハウを生かし、同国の女性が健康で生き生きと活躍できるようサポートするとともに、将来的には女性だけでなく、全国民を対象とした健康診断制度の整備に貢献したいと考えています。
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